実学志向の教育

私はいわゆる「人工知能」と呼ばれる分野で
研究活動をしてる.数理論理学を基盤とする推論
についての研究である.
 
ただ,教員になる前は,キャンパス内ネットの
運用・管理・開発を行っていた.
 
この2つは両極端にあると思う.
 
人工知能」は現在のところ産業への応用があまり
活発ではなく,私自身も「好きだから」研究活動を
やっている.
 
また,職業としてやっていたTCP/IPネットは
そのまま日常のインフラとなっている.
 
人工知能の研究は面白い(と私は思う).
研究活動において,システム機能の実装は当然必須だが,
主たるアイデアは数理論理学や有限の数学といった領域で
考える.ただ,非常に学術的であり,その意味で産業からは
ちょっと遠い感じがするのである.
 
それに対してTCP/IPネットワークはというと,暗号理論など
一部を除けばあまり学術的でなく,標準化や実装といった
実学」が主たるものである.
 
そして,「人工知能」は大手の理工系の大学では必ず
教えられているのに対して,TCP/IPネットの運用技法という
一番泥臭い部分はあまり教えられていないような感じである.
基本的な考えや概略的な考えは講義で教えているものの,
DNS,SMTPをはじめとする各種サービスの「設定方法と手順」とか
経路制御の「設定方法と手順」といったことが,科目として
あまり見受けられない.
 
私自身TCP/IPを学校で習ったことはない.中古のPCを
たくさん買ってきて,Linuxを入れ,自宅に家庭内LANを
張りめぐらし,各種書籍とネットから情報を仕入れて,
後は果てしなくいじくりまわす.それがそのまま職業と
なっていた.
 
まぁ,特定の装置やソフトに強く依存するようなことは
そもそも学術の対象とはなりにくいのだろうけど,
情報工学の分野で最も重要な「実学」には違いない.
 
このような学術-実学の2極化については少し以前から
気になっていたが,他の先生方も同じようなことを
考えているみたいである.↓
http://ameblo.jp/nice55/entry-10000000202.html
 
最近は私の大学でも「実学」を意識して教育内容の見直しをする
方向で動きが見られる.
もちろん私が関わっている情報処理教育についても
「資格取得」を意識したカリキュラム構成に
するべきではないかという方向で動き始めている.
(というか,会議などでは私もその方向を推しているのだけど...)
 
実学を重視すると学術的本質が失われ,学術にこだわると
実用性からかけ離れてしまう.ジレンマだ.
 
旧帝大とか偏差値がとても高い大学では事情が違うのだろうか?
考えてみれば,TCP/IPの技術など,頭の回転の速い人にとっては
ドキュメントに目を通すだけでわかってしまうのではないか,
という感じもする.そういう意味では,特に実学を意識するという
ことは,大学という所においては本来必要ないのかもしれない,
とも思う.
 
やっぱり偏差値か? それでは結論が余りにつまらない.
もう少し考えてみよう.