知的生産の技術(書評)

考えをまとめさせる方法を学生に教えるにはどうすれば良いか.
自分の研究活動を効率的に進めるにはどうすれば良いか.
ここ数週間の私のテーマである.
 
そこでまた書評.
 
梅棹忠夫氏が書いた「知的生産の技術」
1960年代に書かれたかなり古い本である.
 
知的活動の記録,身の回りの情報の整理や文書づくりに
主眼を置き,知的生産性を向上させるための習慣作りや
道具立てといったことのTipsが著者の経験を基に
まとめられている.
 
私自身,学生時代から25年くらいの間,
身の回りの情報整理の方法についていろいろと
工夫をこらしながらかなり悩んできた.
 
コンピュータのアプリケーションソフトが
これほどまでに普及し,また日々さまざまな
種類のものが開発され市販されているが,
満足できるものが本当に無い.
たまに気に入ったソフトが見つかっても
瞬く間に開発とサポートが終了してしまったり,
あまりにマイナーなために不自由さが大きかったりと
長い目で見て使い物にならないケースが殆どであった.
 
そこで今現在私は,かなり原始的な方法に帰着している.
各種のデータファイルは大分類毎にフォルダ(ディレクトリ)
に分け,あまり小分類には拘らずに時系列を主にファイルを
並べている.そして,各ファイルの名前の付け方は,
内容のキーワードを主にしている.
 
ソフトも,不本意であるがMicrosoft社のものを中心に使用し,
あとはHTMLで文書を作っている.
余談だが,近い将来,MS社が各種アプリの主たるデータ形式
XMLを採用すると聞いて喜んでいる.
 
要するに,コンピュータ・プラットフォームの違いをこえて
どこでもデータの利用ができるようにしたいわけである.
 
書評に戻るが,この本は1960年代に書かれたものであり,
当時は個人でコンピュータ使えるという時代ではなかった.
当然,書かれている内容も紙カード(京大カード)をベース
としたファイリングの技法が主に紹介されている.
 
また梅棹忠夫氏は,効率的な日本語の文書作成として
早い時期に「ひらがなタイプライター」を精力的に活用した
人でもある.
 
正直言って,この本に書いてあるメソッドは完全に時代遅れ
であり,とてもそのまま活用できるものではない.特に
日本語タイプライターの活用方法においては笑いの種になる
ほどのものがある.
 
しかし,実際は笑ってはいられない.事実,私のこの25年に
及ぶ情報整理方法の試行錯誤と,今現在の情報整理方法を
振り返ってみると,基本的なモチベーションと取り組み姿勢
は,この本と全く同じであり,そればかりか,考え方という
抽象的なレベルにおいては,大いに学ばされるものがあった.
 
私はこの本を自信をもって人に勧める.コンピュータの使用を
前提にして,この本にあるメソドロジーを今風に活かすと
どうなるかを考えると,梅棹忠夫氏の考えがいかに先進的で
あったかがわかる. というか,情報整理方法の基本は
時代や道具立て,分野を超えて共通なのではないか.
 
コンピュータがうまく使いこなせずに困っている人から
ときどき相談を受けるが,情報整理に対するモチベーションの
低さと,自分なりのメソドロジーの欠如が災いしている
ケースが多いように私は思う.
 
情報整理という作業は一見,生産的でないように思われるが,
長い目で見た知的生産性につながる.ただの「整理魔」に
なるのではなく,コンピュータを自分の心の拡張装置として
うまく使おうではありませんか.
 

知的生産の技術 (岩波新書)

知的生産の技術 (岩波新書)